【短編】極上ヴァンパイアたちは薔薇乙女を溺愛中
 ヴァンパイアの血に反応して目がバラ色になり、その身からむせかえるようなバラの香りがする。
 それが薔薇乙女の証なんだそうだ。

 この目を見た吸血鬼は、抑えようのない吸血衝動に襲われる。
 バラの香りに誘われるように、その蜜の血が欲しくなる。

 目の前にいた潤くんが驚き目を見開いたかと思うと、香りに酔ったように陶酔(とうすい)の表情になる。

 他の人たちも似たような状態で、咲さんの喉がゴクリと上下したのが見えた。

 ウソ……これ、この前の律さんと同じ状況?
 いくら何でもこの人数に吸われたら死んでしまうんじゃないの⁉

 このままみんなに血を吸われてしまうのかと恐怖する。
 逃げないと、とすくむ足を叱咤していたら、突然目の前が暗くなった。

「大丈夫だ、落ち着け」

 優しく、なだめるような声が降ってくる。
 律さんのその言葉だけで落ち着くことは出来なかったけれど、少しだけ安心出来た。

「悪い緋奈。少しだけ血を貰うぞ」
「つっ……」

 言葉の後に、手に痛みを感じた。
 ぐっと押され、血を絞り出しているんだと分かる。

「お前ら手を出せ。とりあえず少量の血で衝動を落ち着かせろ」

 そうして私の目を隠したままみんなに血を与えたらしい。
 少なくとも守ろうとしてくれている様子の律さんに、私は大人しくされるがままでいることにした。
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