【短編】極上ヴァンパイアたちは薔薇乙女を溺愛中
 ただでさえ壁に背中がついている。
 そして相手はヴァンパイア。

 多少の距離は瞬時に詰められ、キスが出来そうなほど近くに満くんの顔が来る。
 彼の両手も私の体を挟むように壁をつき、壁ドン状態になっていた。

「僕の血と君の血を混ぜて、お互いが少しでも飲み込めば契約は完了」

 説明して、尖った牙を使って自分の唇を傷つける満くん。
 初めて会った日のように、唇から赤い血がにじむように溢れた。

「っ!」

 直後、薔薇乙女の私は体の奥底――胸の奥から溢れ出るような熱を感じる。

 ダメッ、目の色が変わったら!

「ああ、本当にすごいな……むせかえるようなバラの香り。また君の首に咬みつきたくなる」

 陶酔したように黒曜石の目が蕩ける。
 でも甘く妖しく微笑む満くんは、私の顔から目を逸らさなかった。

「でも、まずは契約が先だからね。……血は後でゆっくり貰うよ」
「やっ!」

 悪あがきだとは思ったけれど、顔をそらす。
 でも顎を掴まれて正面に戻された。

 血に濡れた満くんの口が、私の唇に近づく。

 抵抗が出来ない状況に、ギュッと目をつむった。

 脳裏を過ぎるのは律さんの顔。
 その顔に、私は届くはずがないと思いながら“助けて!”と願った。
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