ヴァンパイアガールズ
「初めて家に2人が来たとき,一目惚れしたのはお姉ちゃんだけじゃない。……私は私で,浅海が好きなの。だから名前も,浅海みたいにした」

「え……」



さらりと告げられた言葉を,私は直ぐに飲み込むことが出来なかった。



「だから,お姉ちゃんの所に行くなら,放課後,私とにしよう? 私の方がどっちのことも分かってるし,必要なことも引き出せるはずだよ」



美海が私の手を引く。

力の抜けた私の手は,簡単に動いた。

けれど,その腰に手を回して引き留めるものがいる。



「離して,特待生」

「悪いけど,ヴァンパイア。浅海は俺が貰うことに決めてる。浅海が求めるのはお前じゃない」



バチバチと睨み合う2人に挟まれて,私は呆然と交わした会話を思い返した。



「ごめん,美海,私気付かなくて……」

「……いいよ,浅海。浅海が決めたことは,全部正しい。浅海に反するものが,この世の全て」

「盲目だが,言えてるな。俺の次に,全てのものが浅海のものだ」

「違う,特待生。特待生のくせに何も分かってない。浅海が,いつも真ん中」



いつの間にか,2人が言い合いを始めている。

私はほうと息を吐いた。

もう,夜休みも終わってしまう。

ピアノの音も,止んでいた。



「美海の言う通り,放課後にする。そのサクラさんは,放課後も音楽室にいるよね?」

「うん,用事のある日の方が少ないから」



そっか。



「浅海,俺も付き合うからな」



念を押すように,低く言われる。

ちはやが私を睨み付けていた。

遮るように,美海が私を背に隠す。

うん,と。

答えずうつむいた私の言葉は,きっとちはやに届いたと思った。
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