ヴァンパイアガールズ
夜休みになって,私は戸惑っているようなハルを目に留める。
何を戸惑っているのか察した私は,ハルが下を向いている隙をみて静かに教室を出た。
スマホが点滅しているのを見て,内容を確認しないままスカートに隠す。
点滅さえ確認できれば,後はスマホを教室から持ち出した意味はない。
寧ろ他の教師に見つかったらと,八つ裂きを想像して邪魔なだけだった。
ノックもなく,勝手に学園長室に入る。
「やあ,早かったね」
色々な意味で,そうでしょうと頷いた。
聞こえる苦しげな鼻息が,汚い。
「お久しぶりです」
形だけの敬語は,大気に溶ける。
無謀にも,このヴァンパイア以外に使える存在がいないと乗り込んだ日が懐かしかった。
1年経たずあの教室を去ることは,ここへ来た日からしたら幸いなことのはずなのに。
「どうかしたのかな?」
「いえ,べつに」
胸を占領するのは,溢れそうな寂しさだけだった。
涙は全部流れきったと思っていたのに。
また上がってきそうだから,怖い。