幸せのクローバー
6.クローバー畑
クローバー畑のことは、私と奈緒の秘密だった。ときどき2人で出かけたけど、四つ葉を見つけることはできなかった。
見つけた人は幸せになるって、本当だよ。奈緒は星になってしまったけど、今でも弘樹に愛されてるんだよ。出会ってからずっと、これからもずっと、いつまでも続くんだよ。
3枚の葉っぱに1枚増えて、4枚になるから4あわせ。ハートの形をしてるのは、幸せがいつまでも続きますように、っていう願いなんだよ。
ねぇ、奈緒──。
あの頃私は、第三者だったよね。第三者って、アルファベットの『C』で表すこと、あるよね。『Clover』の『C』だよね。奈緒と弘樹は、『lover』だったよね。
牧原君に何度も言われた「自分に嘘をついてはいけない」っていう言葉。なかなか本当のことを言えないまま時が過ぎたけど、今日は言うよ。奈緒にはずっと幸せでいてもらいたいから。ずっと一緒にいたいから。弘樹には、教えるね。
「何か話してたのか? 先月、命日だったのに。来たんだろ?」
私の合掌時間が長いから、弘樹が聞いてきた。今まで何回もお墓参りに来てるけど、そのどの時よりも長かったと思う。
「本当は私と奈緒の秘密だったんだけど、弘樹には教えてあげる」
お墓参りを済ませてから、来た方向とは反対の道を進んだ。あまり使われていない砂利道だけど、近道だから。
「ここだよ」
「何? ……うわ、すごい」
そこは、私と奈緒が見つけたクローバー畑。最初は違う道で見つけて、お墓に近いのは偶然だった。
「奈緒ね、クローバーが大好きだったよ。いつもここで……四つ葉を探して……」
「あったのか?」
「うん。ここじゃなかったんだけどね……高校に入る直前に見つけてたよ。ほら」
私は奈緒にもらった押し花を弘樹に見せた。刻まれた日付は、ちょうど10年前。
「奈緒には……生きてるときには言わなかったんだけど、私、ずっと弘樹が好きだったんだよ」
「……え?」
「でも、だからって、弘樹の彼女にはなれなかった。奈緒に申し訳なくて」
「……今は?」
「変わらないよ、何も。今も好きだよ」
そして私は、クローバー畑の中へ駆け出した。久しぶりに四つ葉のクローバーを探しながら、弘樹の言葉を待った。
「夕菜、あのさ──俺の、今度の転勤……」
「本社って言ってたよね。近く?」
「いや──遠いんだ。引っ越さないと」
それじゃなかなか会えないね、と思っていると、弘樹が隣に立っていた。
「一緒に来てくれないか? 転勤先に。嫁として」
「──え? ヨメ……!?」
「付き合ってもないのに、急すぎるとは思う。でも、俺には──夕菜が必要なんだ。だからこれ──」
弘樹はポケットから、奈緒の形見の指輪を出した。彼のものではなく、私がずっと預かっていたもの。たぶん使うと思うからと、会ってすぐに返していた。それは単に、恋人として受け取りたいだけだったけど……。
「付けても良いか? 奈緒ので申し訳ないけど、仮の婚約指輪」
「……はい」
予想外の展開だったけど、嬉しかったし、迷いもなかった。
私が微笑むと、弘樹は再会してから一番の笑顔になって。私の左手を取って、ゆっくりと薬指に指輪をはめていく。
「今度、ちゃんとしたの渡すから」
そして弘樹に抱き寄せられて──。
プロポーズの嬉し涙は出なかったのに。
「なんで泣いてんだよ……」
「……弘樹こそ」
どちらからともなくキスを交して、離れたときには2人とも頬を濡らしていた。
理由は聞かなかったけど、同じだったと思う。
過去の辛い思い出と、この瞬間の幸せ。
見つけた人は幸せになるって、本当だよ。奈緒は星になってしまったけど、今でも弘樹に愛されてるんだよ。出会ってからずっと、これからもずっと、いつまでも続くんだよ。
3枚の葉っぱに1枚増えて、4枚になるから4あわせ。ハートの形をしてるのは、幸せがいつまでも続きますように、っていう願いなんだよ。
ねぇ、奈緒──。
あの頃私は、第三者だったよね。第三者って、アルファベットの『C』で表すこと、あるよね。『Clover』の『C』だよね。奈緒と弘樹は、『lover』だったよね。
牧原君に何度も言われた「自分に嘘をついてはいけない」っていう言葉。なかなか本当のことを言えないまま時が過ぎたけど、今日は言うよ。奈緒にはずっと幸せでいてもらいたいから。ずっと一緒にいたいから。弘樹には、教えるね。
「何か話してたのか? 先月、命日だったのに。来たんだろ?」
私の合掌時間が長いから、弘樹が聞いてきた。今まで何回もお墓参りに来てるけど、そのどの時よりも長かったと思う。
「本当は私と奈緒の秘密だったんだけど、弘樹には教えてあげる」
お墓参りを済ませてから、来た方向とは反対の道を進んだ。あまり使われていない砂利道だけど、近道だから。
「ここだよ」
「何? ……うわ、すごい」
そこは、私と奈緒が見つけたクローバー畑。最初は違う道で見つけて、お墓に近いのは偶然だった。
「奈緒ね、クローバーが大好きだったよ。いつもここで……四つ葉を探して……」
「あったのか?」
「うん。ここじゃなかったんだけどね……高校に入る直前に見つけてたよ。ほら」
私は奈緒にもらった押し花を弘樹に見せた。刻まれた日付は、ちょうど10年前。
「奈緒には……生きてるときには言わなかったんだけど、私、ずっと弘樹が好きだったんだよ」
「……え?」
「でも、だからって、弘樹の彼女にはなれなかった。奈緒に申し訳なくて」
「……今は?」
「変わらないよ、何も。今も好きだよ」
そして私は、クローバー畑の中へ駆け出した。久しぶりに四つ葉のクローバーを探しながら、弘樹の言葉を待った。
「夕菜、あのさ──俺の、今度の転勤……」
「本社って言ってたよね。近く?」
「いや──遠いんだ。引っ越さないと」
それじゃなかなか会えないね、と思っていると、弘樹が隣に立っていた。
「一緒に来てくれないか? 転勤先に。嫁として」
「──え? ヨメ……!?」
「付き合ってもないのに、急すぎるとは思う。でも、俺には──夕菜が必要なんだ。だからこれ──」
弘樹はポケットから、奈緒の形見の指輪を出した。彼のものではなく、私がずっと預かっていたもの。たぶん使うと思うからと、会ってすぐに返していた。それは単に、恋人として受け取りたいだけだったけど……。
「付けても良いか? 奈緒ので申し訳ないけど、仮の婚約指輪」
「……はい」
予想外の展開だったけど、嬉しかったし、迷いもなかった。
私が微笑むと、弘樹は再会してから一番の笑顔になって。私の左手を取って、ゆっくりと薬指に指輪をはめていく。
「今度、ちゃんとしたの渡すから」
そして弘樹に抱き寄せられて──。
プロポーズの嬉し涙は出なかったのに。
「なんで泣いてんだよ……」
「……弘樹こそ」
どちらからともなくキスを交して、離れたときには2人とも頬を濡らしていた。
理由は聞かなかったけど、同じだったと思う。
過去の辛い思い出と、この瞬間の幸せ。