クールな同期と甘いキス
5.気づいた気持ち
昼休みに食堂でお弁当を食べていると、「あれ、白石さんだ」と声をかけられ顔を上げた。
そこには同期の川端君がトレーを持って立っていた。相変わらず人懐っこい笑顔で声をかけてくる。
「白石さん、ひとり? 今日、さくらさんは一緒じゃないの?」
川端君はキョロキョロしながら私の前に座る。
「嬉しそうな所申し訳ないけど、今日はさくら先輩有休なの」
「そっか、残念~。そうだ!」
さくら先輩に会えず、悔しそうな川端君はごそごそと何かを取り出した。
見せてきたのはチラシで、そこには忘年会の日時と場所が書いてある。
「白石さん。同期の忘年会、今年こそこない?」
忘年会……。
そうか、もう12月だ。いつのまにかそんな季節になっていた。
川端君はよく同期の集まりを企画してくれて、ほぼ参加しない私にもいつもこうして声をかけてくれていた。
「今年は会社の近くの安い居酒屋しか取れなかったから会費は安いけどね」
「そうなの?」
基本、こうした集まりは断っていたが、三雲君と住むようになってから負担が減ってきたので少しだけお金に余裕があった。
三雲君はなんだかんだ毎回参加していると聞いた。今回もきっと行くんだろうな……。
一緒に出たいなという気持ちが湧いてくる。
「行こうかな……」
「まじで!? 白石さんが来てくれるのレアだから喜ぶ奴多いよ」
レアって……。
ハハハと渇いた笑いで流す。
すると、「三雲さぁん」と甘えるような声が聞こえた。
振り返ると、食堂の入口で秘書課の本城さんが、トレーを持つ三雲君に駆け寄って腕を絡ませていた。
あの美人に腕を絡められても三雲君は顔色一つ変えない。
むしろ、どことなくイラッとした雰囲気を三雲君から感じた気がした。
凄いな……。あんな態度をされても、自分から積極的に絡みに行ける本城さんの性格が少し羨ましい。
ついジッと見てしまったので、三雲君とバチッと目が合ってしまった。
「ここいいか?」
本城さんをくっつけたまま、三雲君は川端君の隣に座った。もちろん本城さんもその隣に座る。
「よう、三雲。どうも、本城さん」
川端君の挨拶に本城さんは綺麗な笑顔で軽く会釈をした。
「なに見ているんだ?」
三雲君は私が持っていたチラシをパッと取った。
「忘年会……。あぁ、もうそんな時期か」
「三雲も来るだろ。今年は白石さんも来るってさ。ねー」
川端君に「ねー」と言われてぎこちなく頷く。
「え?」
三雲君が私に視線を向ける。
その眼が『大丈夫なのか?』と聞いている気がして小さく頷いた。
「そうか。たまにはいいよな」
三雲君が微笑むと、本城さんが三雲君の方に身を乗り出してチラシを覗き込んだ。身体をくっつける様な体勢だ。
なんというか……、あざとさを感じる。
「え~、いいなぁ。楽しそう。ユリアも行きたぁい」
甘えるような間延びした声で三雲君を見あげる。
「本城は後輩で同期じゃないだろ」
目線を向けず、冷たく言い放つ。
本城さんは私たちの一期下の後輩に当たるので、同期ではないから出られない。
つまらなそうに、「ケチ~」と可愛く頬を膨らませた。
そしてチラッとこちらを見た本城さんの視線が痛い……。睨まれてしまった……。
美人が睨むと迫力があって怖い。
するとそこに追い打ちをかけるように川端君がニヤニヤしながら言った。
「三雲、いつも同期会に白石さんが来ないか気にしていたもんな」
「え……」
気にしてくれていたの?
三雲君を見ると目が合ってしまった。
「別に……。みんなも気にしていただろう」
「まぁね」
なんだ、三雲君だけが気にしていたわけではないのか。少し残念のような気持ちになる。
すると本城さんが口を開いた。
「白石さんと三雲さんって親しいんですか?」
唐突な質問に目を丸くする。
本城さんは品定めをするかのようにジッと私を見つめてきた。
「え? あ、えっと別に……」
「俺が誰と親しかろうが本城には関係ないだろ」
迫力に押されてしどろもどろになると、三雲君がため息つきながら本城さんにそう言い放つ。
「それと、あんまりくっつくな。飯が食いにくい」
「え~」
三雲君の冷たい言い方にも本城さんはどこか嬉しそうだ。
振り払おうとする三雲君に本城さんはニコニコしながらくっつこうとする。
三雲君は嫌がっているのだろうけど、はたから見たらいちゃついているようにも見えてしまった。
なんだかここに居たくないな……。
「私、もう行かなきゃ」
いたたまれない気持ちになって、逃げるようにそそくさとその場を後にした。三雲君の視線を感じたが気が付かないふりをする。
食堂から出て、ハァァとため息がでた。
三雲君は本城さんを嫌がっていたけど、二人並ぶと本当に絵になる。
美男美女……。お似合だなと思ってしまった。
「いいなぁ……」
ポロッと言葉に出る。
ん? 私、今何て言った?
首を傾げていると、「白石さん」と声をかけられた。振り返ると本城さんが笑顔で歩いて来る。私を追いかけてきたようだ。
「えっと、なにかな?」
「単刀直入に聞きますけど、白石さんって三雲さんが好きなんですか?」
「えぇ?」
本城さんは微笑みながらも、その目が笑っていない。迫力に少し押された。
「どうして?」
「確認です。私、三雲さんが好きなので」
堂々と好きだと言われて驚いた。
『綺麗な自分に似合う、アクセサリー的な男が好きなんだ』
『この私に似合うのはああいう完璧にカッコイイ人じゃないと』
以前、そう言っていた言葉を思い出す。
彼女は本当に心から三雲君が好きなのかな……。
どういう意味での「好き」なのだろう。
「本当に好きなの?」
「え?」
「三雲君のこと、ルックスだけじゃなくて心から本当に好きなの?」
そう聞くと本城さんはムッとした顔になった。
「好きですよ。クールで冷たい所なんかも素敵です」
冷たい? 三雲君が?
本城さんの言葉に首をかしげる。
三雲君は優しくて穏やかで心配性で温かい人だ。冷たさなんて感じない。
「あなたと私では、三雲君の印象が違うみたいだね」
そう言うと本城さんはキッと睨んできた。
う……、怖い。
「まるで自分の方が三雲さんを知っているかのような口ぶりですね」
「別にそういうわけじゃないよ。人によって印象って違うからさ」
するとそのタイミングで、ちょうど後ろのエレベーターが開いた。
サッとの乗り、すぐに扉を閉める。本城さんは追いかけては来ず、エレベーターの外で面白くなさそうに私を睨んだままだった。