クールな同期と甘いキス
帰り道、私は上機嫌だった。
川端君のお蔭でいいクリスマスプレゼントが買えたと思う。鞄の中をそっと見て微笑む。
喜んでくれるといいな。鼻歌交じりで家に入ると靴が置いてあり、三雲君が帰ってきているようだった。
「ただいま」
「……お帰り」
あれ?
部屋から出て来た三雲君の表情が暗い。
「待たせてごめんね。すぐにご飯の用意するから」
結構待たせたのかな、お腹空いていたよね。
急いでキッチンに向かうと、その腕を取られた。振り返ると三雲君が険しい表情で私を見ている。こんな表情、初めて見た。
「どうしたの?」
「どこ、行っていたんだ?」
私の質問には答えずに、三雲君は静かな声で聞いてきた。
「どこって……、えっと、ちょっと用があって……」
三雲君のプレゼントを選んでいたなんて言えない。
できればプレゼントはクリスマスに渡したいし、驚かせたかった。言葉を濁すと三雲君は私の腕を強く掴んだ。
「え? 痛いよ、三雲君。本当にどうしたの?」
「……抱きしめていいか?」
そう聞かれてドキッとする。
どうしたんだろう。改めてそんな風に聞いて来るなんて珍しい。
三雲君の様子に戸惑っていると、腕を引かれて抱きしめられた。フワッといい香りがしてドキドキする。
三雲君の体温を感じて、私の心臓の音が聞こえないか心配になった。
すると三雲君が低い声で呟いた。
「白石、好きな奴でも出来た?」
「え……」
三雲君の言葉に驚いて声を失う。
え、どうして急に!? まさか私の気持ちがバレたんじゃ……。
しかし三雲君の声は固い。
「俺が抱きしめると、体が強張るようになっただろ。誰か好きな奴が出来た? 俺がこうするのは嫌だ?」
そう聞かれてハッとする。
確かに抱きしめられると意識しちゃって体が固くなっていた。
もしかして私に好きな人が出来たから、こうしてハグされることが嫌だと思っているって勘違いされた……?
「そんなこと……!」
慌てて否定しようと顔を上げると、三雲君は私の体を離して距離を取った。
「ごめん、そうならそうと言ってくれたら良かったんだ」
「三雲君、そうじゃなくて……」
「帰りに男と居ただろ? 遠くて良く見えなかったけどあれは川端?」
帰りってさっきの事?
川端君と居るところを見られていたんだ。
「あれは、その……事情があって……」
三雲君のプレゼントを一緒に探してもらっていたなんて言えないし……。どうしよう、どう言ったらいいんだろう。
誤解されたという焦りから、上手く言葉が出てこない。
「あんなに嬉しそうに笑う白石の笑顔、初めて見た……」
ボソッと呟くと三雲君は軽く微笑んでから私に背を向けた。
「本当、悪かったな。もう触らないから」
謝ると三雲君は上着を掴んで家を出て行った。
「待って、三雲君!」
玄関のバタンという扉の音が私を拒否していた。
「っ……」
私は閉まった扉を見つめながら座り込む。
え、なんで……。どうしてこんなことになったの? 三雲君は、私に好きな人がいるから嫌々ハグをされていたと思っているんだ。
違うのに……、そうじゃないのに……。
慌てて電話をかけるが三雲君は出てくれない。
結局、三雲君は私が寝ている間に帰って来て、翌日起きる前に出勤していった。