クールな同期と甘いキス
「三雲さーん」
本城さんがほろ酔いで駆け寄ってきて三雲君に抱き付く。
「何しているんですか~? 行きましょう」
そう言うと強引に三雲君の腕を引っ張って連れて行ってしまった。
あぁ、また本城さん……。
ガックリと肩を落とす。せっかく三雲君と話が出来たのに邪魔が入ってしまった。
もう、どうしたらいいの……。
二人に遅れて席に着くと、本城さんがこれ見よがしに三雲君にべたべたしていた。
「本城さんは本当に三雲が好きだなー」
「三雲もいい加減付き合ってやれよ」
など周りもはやし立てている。
もはや付き合ってしまえという雰囲気になっていた。そんな様子に胸がぎゅっと締め付けられるように痛くなる。
……本城さんは三雲君に振られているんだから気にしちゃいけない。
そう言い聞かせつつも、三雲君から離れようとしない本城さんにイライラしてしまう。
三雲君も一度振っているならちゃんと拒否すればいいのに。
それとも、実はまんざらでもないのかな? もしかして本当は本城さんのこと……。あぁ、もうわからない!
イライラと不安と嫉妬で気持ちがぐしゃぐしゃになる。
「白石―。どうした、飲んでいるか?」
男の同期が酔いながら私にビールを注いできた。
「そんな辛気臭い顔してないで飲め飲め~」
「ちょっと酔っぱらい。止めなって」
松本さんが顔をしかめるが、イライラしていた私は手渡してきたグラスを受け取った。そしてグビッと一気に飲み干す。
お酒に弱いとか関係ない。むしろ少し酔うことで今はこのモヤモヤを吹き飛ばしたかった。
「ちょっと、大丈夫?」
「うん」
お酒はあまり飲めないと思っていたけど意外といけるかも。体がポカポカしてきて温かくて気持ちいい。
「あ、白石ちゃん。ほっぺたが赤くて可愛いね~」
「赤い?」
そう言われて頬を触る。
本当だ。自分でもわかるくらいに熱くなっている。頬も熱くて気持ちがフワフワしてきた。ついでに眠くなってきた。
あぁ、なんだか机に突っ伏して寝てしまいたい。寝たらこのモヤモヤした気持ちがなくなるだろうか。
ウトウトしていると体がぐらつき隣の人に頭が当たってしまった。
そこでハッと目が覚める。
「あ、ごめん……」
「白石さん、大丈夫? 送ろうか?」
隣にいた川端君が心配そうにのぞき込む。
そうだな。ここにいてもイライラするだけだし、眠くもなってきたからもう帰ろうかな。
寝てすべてを忘れたい気分だ。
「ううん、大丈夫。自分で帰るから……」
そう言って立ち上がろうとすると体がふらついてしまい、近くの男子数人が慌てて支えてくれた。
「あ、ごめんね」
「マジで大丈夫か?」
「送ろうか、家どこ?」
そう聞かれてどう答えようか迷う。
どこって聞かれてもなぁ……。答えにくいなぁ……。
「うーん、大丈夫! 一人で帰れる……」
と言いかけた時、後ろからグイッと腕を引かれて肩を抱かれた。
驚いて見上げると三雲君が険しい顔で立っていた。
「俺が連れて帰るからいい。帰るぞ、白石」
「三雲君……」
三雲君は有無を言わせない雰囲気で私の荷物を持って、立ちやすいように身体を支えてくれる。
もたもたしていると、しびれを切らせたように三雲君がフワッと私を抱き上げた。
「きゃあ!」
「遅い! さっさと帰るぞ」
突然のお姫様抱っこに心臓が口から飛び出しそうなくらいドキドキしている。
さらにみんなに注目されて恥ずかしくて顔が真っ赤だ。
「大丈夫だから降ろして!」
「大丈夫なわけあるか。酒、飲めないくせに飲んだりするからだ!」
「だって……」
眉間にシワを寄せて見下ろす三雲君から顔をそむける。三雲君が珍しく怒っている。
するとそんな私たちを見ていた他の同期がざわざわしだした。
「帰るぞだなんて……、なんかふたり仲いいね?」
ニヤッとする川端君の問いかけに、三雲君が「あぁ、まぁな」と振り返る。
「一緒に暮らしているから」
そう言うと、「じゃ」と私を抱き上げたまま外に出て行った。
後ろから「ええー」という声が響いていたが三雲君は無視している。私は唖然としたまま言葉が出ない。
どうして……? 一緒に暮らしていることは秘密じゃなかったの……?
外に出るとすぐにタクシーを捕まえて私を中へ押し込んだ。そして三雲君も乗り込み、車は発車する。
「三雲君……」
「家でさっきの話の続き……、聞かせて」
低く呟き、私の離さないようにしっかりと手を握った。