クールな同期と甘いキス
天の神の助け、いや同期の三雲君に連れてこられたマンションは公園を抜けた先にある綺麗な建物で、部屋はそこの五階にあった。
2LDKとのことで、男のひとり暮しにしては広い。
物が少ないせいもあるかもしれないが、通されたリビングも広々としており、私が荷物を置いても狭さを感じなかった。

これは、まさか……。

どうみても独り暮らしではない広さに、しまったとおでこを押さえた。
やってしまった。これはまずいパターンではないか?
私としたことが大切なことへの配慮がなかった。

「あの、大丈夫なの? 私がここにいても」

こんなに広い所に一人暮らしだなんて考えにくい。もしかしたら一緒に住んでいる人がいるのかもしれなかった。
焦りながら含ませた言葉に、三雲君はカウンターキッチンでコーヒーを入れながら「あぁ」と頷いた。

「今年の春まで弟と住んでいたんだ。弟は大学卒業したから出て行ったけど、俺は会社からも近いしそのまま一人で住んでいる」

弟さんと住んでいたのか。

「そうなんだ。良かった」

それを聞いてホッと胸を撫で下ろした。下手したら修羅場になるかもと内心冷や汗をかいていたところだ。
するとローテーブルの前にちょこんと座る私にコーヒーが入ったマグカップが渡される。

「彼女と住んでいるとでも思った?」

心を読まれていたようでギクッとする。正解だったため曖昧に笑いながらコーヒーを飲んで誤魔化した。

「別に彼女なんていないから、気にしなくていい」

その言葉に目を丸くする。このイケメンからは一生縁のなさそうなセリフだ。
一瞬、耳を疑いそうになった。

「彼女、いないの?」
「悪い?」

コーヒーを飲みながらジトッと冷たい目線を送る三雲君に私は慌てて首を横に振った。
別に彼女がいないことは悪いことではないし、なにより私自身が人のこと言えた義理ではない。

「ううん、なんか意外だなと思っただけ」
「そういう白石こそ、あんなところで何していたんだよ。夜は危ないだろ」
「あ、うん……」
「彼氏とケンカでもした?」

そう聞かれてつい笑ってしまった。

「それこそあり得ない。そんな人いないもん」

こんな地味で冴えない私に彼氏なんているはずがない。むしろ、いたためしがない。
そもそも周りもこんな地味な女、願い下げだろう。

「じゃぁ、どうしたんだよ」

三雲君は引き下がる様子はなく、理由を聞いてくる。
口ごもりながら誤魔化そうかとも考えたが、彼の目は真っ直ぐこちらに向けられており、きちんと話すまでは見逃してはくれないような気がした。
まぁ、確かに同期がスーツ姿で大荷物抱えて公園でうな垂れていたら普通は気になるよね。
まぁいいかと思う。
話したところで三雲君には関係ないことだ。

「あの……、笑わないで聞いてくれる?」

そしてことの顛末を全て三雲君に話した。


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