クールな同期と甘いキス

翌日、たっぷり愛された私は気恥ずかしい気持ちで目が覚める。
……あのまま寝ちゃったんだ。
昨日のことを思い出して顔が赤くなる。三雲君の息使いも肌も香りも全てが体に生々しく焼き付いていた。
思い出すだけでも恥ずかしい。でもこんなにも心が満たされる朝は初めてだ。

チラッと横を見ると、隣ですやすやと眠る三雲君は寝顔も整っている。
今のうちに、と部屋をそっと出てシャワーを浴びた。鏡に映る自分に三雲君の愛した跡が残っていて、恥ずかしさに身もだえる。
うわぁ……、私ついに……。

『柚月……』

三雲君の欲情した目と、低く甘い色気のある声を思い出す。それだけで腰が砕けそうになってしまった。

「あぁ、もう。しっかりしないと」

赤い顔を払うように首を振ると、さっさと支度を済ませて簡単に朝食を作ることにした。

昨日の飲み会でもあまり食べていなかったからお腹が空いていた。すると物音に目が覚めたのか、三雲君が起きてきた。

「おはよ」
「お、おはよう。ご飯食べる?」

どんな顔していいかわからず、なんだか照れてしまい早口になってしまった。
どうしよう……、恥ずかしくて顔が見られない。
すると、後ろから三雲君が抱き着いてきた。

「いなくなったかと思った……」
「あ、ごめん。驚かせちゃった?」

驚いて顔を上げると笑顔を向けられた。
その甘い笑顔に自然と赤面をして顔をそむける。

「柚月、可愛い。赤くなった」
「それは、その……」
「ん?」
「ご、ご飯作っているから」
「フフ、そっか」

言い訳みたく顔をそらしてフライパンを動かすと、三雲君は笑って頬にキスをしてからコーヒーを入れだした。
もういちいちドキドキして苦しい。
三雲君の仕草、声が全て甘くなっている気がする。

ご飯の用意ができると、一緒に食べ始めた。
恥ずかしさを紛らわすために何か話さないと……。
そういえば、と昨日の同期会で言われたことを思い出したので聞いてみた。

「あのさ、昨日ね? 同期の子たちが、私が同期会に出られない理由を、ずっと前に三雲君から聞いていたって言っていたんだけど……。どうして知っていたの?」

昨日、同期が言っていたことがずっと気になっていたのだ。

「三年くらい前から知っていたって……」

そう聞くと、「あぁ」と三雲君はうなずいて答えてくれた。

「実は俺、柚月が近所に住んでいるって知っていたんだ」
「え!?」

知っていたの?
驚くと三雲君はやや気まずそうに頬をかく。

「時々、駅やスーパーで見かけていてさ。お父さんといる時に借金があるって会話が聞こえちゃって……。何となく事情があるんだろうなという予想はしていたから、そういうことかって……。あ、もちろん、借金のことは他の奴に話したりしていないから安心して」
「そうだったんだ」
「会話を聞くつもりはなかったんだけど……、悪かったな」

三雲君は申し訳なさそうに手を合わせた。
それに首を振る。なぜか「そうか、三雲君知っていたんだ」というホッとした気持ちになった。

「親のために頑張っている柚月が気になって仕方なかった。気が付けば目で追っていたし、総務に行くときも柚月がいるタイミングを狙って行っていた」

そういえば前に、私がいるときに総務に来るようにしていたって言っていた。あれは、さくら先輩が苦手だからっていう理由だけではなかったんだ。 
私に会うつもりで来ていたなんて……。
三雲君の行動を思い返して顔が赤くなる。

「けなげに頑張る柚月をいつの間にか好きになっていた」
「三雲君……」
「だから、公園で路頭に迷っている柚月を見つけたときは正直チャンスだと思った。力になって、俺のことを見てほしいって思った」
「じゃぁ、あのハグの条件は?」

そう聞くと、三雲君はバツが悪そうに言葉を濁す。
しかし、私が黙って見ていると観念したように話し出した。

「もちろん、ハグがストレス緩和にいいからして欲しかったのが第一だ。それになにか条件つければ、柚月はここに居やすいだろ?」
「それだけ?」
「……下心は……、まぁ……、全くなかったと言えば噓にはなるかな」

観念したように頷く三雲君に吹き出してしまった。

「ごめん、可愛いなって」
「気持ち悪いとか思わない?」
「三雲君以外の人からの提案なら気持ち悪いと思ったかもしれないけど、嫌ではなかったから」
「それって、柚月も俺が好きだったってこと?」

そう聞かれて首をかしげる。
初めから意識して好きだったかと言われればそうではなかったと思う。でも住まわせてもらうために、嫌々無理やり飲んだ条件ということでもない。
ということは、やはり好きだったのかな……?
人を好きになったことがないからよくわからず、うーんと考えていると三雲君がそれを止めた。

「いや、もうそれ以上考えなくていいから」
「ハハハ……」

すると、「あっ」と三雲君がスマホを見て呟く。

「同期からすごいメールが来ている……」

見せてくれたスマホには同期数人からメッセージが入っており、みんな昨日の飲み会でのことを「どういうこと!?」と聞いていた。

「素直に付き合っているって言っていい?」
「付き……」

言いかけて顔が赤くなる。
そうか、私三雲君と付き合うのか。つまりは恋人同士になるってことだよね!? 三雲君と……、恋人……。
うわぁぁぁ、と悶えていると「柚月の考えが手に取るようにわかる」と笑われた。

「秘密だって言っていたのに、一緒に住んでいることバレちゃったね」
「初めは秘密にしようと思っていたんだけどな。独占欲がわいた」
「独占欲?」
「柚月のそばにいるのは俺だって。あの時も、他の奴に触られたくなかった」

あの時……。同期会から帰ろうとした時、男の同期がふらついた私を支えてくれた時の事だろうか。だからすぐに来てくれたのか……。
あぁ、もうどうしてそう心を溶かしてくるのだろう。その独占欲が嬉しいだなんて思ってしまった。

三雲君は私に甘い。今までの我慢していたのかなと思うくらいに、愛されている実感がわく。
三雲君と恋人関係になったことで、この休みは常に甘い雰囲気の中過ごしていた。
人にここまでたっぷりと甘やかされるという経験がなかったから少し戸惑うけど、三雲君はその戸惑いさえ受け入れてくれている。
人に甘えていいんだと教えてくれる。居心地がいい。
そう思いながら過ごした。

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