クールな同期と甘いキス

2.同居の条件


ドラマや漫画のような展開は有り得ないとわかってはいた。
当然、三雲君は約束通り、指一本触れることはない。

でもせめて普通なら、恋愛経験も少ない26歳の女がイケメン同期の部屋に泊まったなら(なにかあるわけがないとわかってはいるけれど)、ドキドキして眠れぬ一夜を過ごす……となるところだ。
でも、残念なことに私にはそんな繊細な要素はなかったようで……。

「よく眠れたか?」
「うん。とてもよく眠れたよ」

スッキリした表情の私を前に、出勤準備を済ませた三雲君はクールに「そうか、良かったな」と返した。
昨日は弟さんが使っていた部屋で布団も出してもらい、シャワーも借りてこうして朝御飯も(コーヒーとパンだけだけど)出してもらって至れり尽くせりだ。

この人は神様か何かなのかな。拝みたくなる。いや、心の中で拝んでおこう。
本当、三雲君には感謝しかない。

「今日中にはどうするか考えるから、荷物は夕方取りに来てもいい?」

さすがにこの荷物を持って会社に行くことは出来ない。厚かましさついでにそうお願いする。

「別にいいけど、なんとかなるのか?」
「……頑張って考えるよ」

本当は考えたところで、行き着く答えは昨日と変わらないと思う。
やはり給料日まで漫画喫茶で過ごすしかないだろう。
給料が入れば曰く付き物件だろうがおんぼろアパートだろうが、何処かしら部屋が借りられるかもしれない。

「ふぅん。まぁ、せいぜい頑張って」

励ましとも思えないトーンで言われた言葉に小さく頷き、泊めてもらったお礼に食器を洗って片付ける。

「こんなことしか出来なくてごめんね」
「いや……」

三雲君は洗い物をする私をダイニングテーブルから見つめ、なにやら考えるような顔をする。
「何?」首を傾げるとスッと顔を背けて呟いた。

「あのさ、あんなこと言ったけど本当に何かされるとかは考えなかったわけ?」
「え?」

あんなこととは昨日の「何もしない」という言葉だろうか。
しかし、ふふふと笑って首を振った。

「三雲君が私なんかに手を出すなんて思えないもん」

ニコニコしながらそう答えると、三雲君は「ふぅん」と呟いてコーヒーを飲む。
その横顔を見て本当に整っているなと思った。

入社してから私は同期会とか飲み会とかほとんど参加したことがなかったから、仕事の会話以外で三雲君とちゃんと話したのはこれが初めてだ。
相変わらずクールだけれど、そっけないわけではなくこんな地味な私ともちゃんと話してくれるいい人だと思う。
意外と話しやすいし。
男性とあまり関わったことがなかった私でも自然と話ができたのだから、三雲君のコミュニケーション能力が高いのだろうな。
さすが我が社のエース営業マン。
大変なこと続きだったけどこうして三雲君と話ができたし、良いこともあったなと小さく笑った。

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