幼なじみ、じゃない。


「行ってきます!涼ママ!」


「…………ます」


「ふふっ、羽衣ちゃん面倒見良くて本当に助かってるわ~。もう涼のお嫁に来てくれない?」



やっとネクタイを結び終わって、現在玄関前。


今にも倒れそうな人を腕でがっちりホールド。言葉になってない「行ってきます」が聞こえたけど、まあそれはさておき。



「ええ、お嫁!?それはないよ~涼ママ。だって私たち幼なじみだよ?」



ー自分で言っておいて、胸がズキリと痛む。自分の言葉が鋭く刺さってくる。



その痛みには知らないふりをして、手をひらひら軽く振って否定すると、



「…………うん。絶対ないよね」



なんて、下を向いてうつむきがちに答える隣の表情は見えない。朝のせいか分からないけど、少しその声は小さくて、掠れていた。



その言葉にさっきよりも胸が傷んで、苦しい。



“絶対ないよね”……か。


そうだね。絶対ありえないこと。



ーだって君には、好きな人がいるもんね。




そんな君は、私がこの毎朝を楽しみにしてるなんて、絶対知らないだろうな。



君を起こすことが出来る、いちばんに君の瞳に写ることが出来る、“幼なじみ”の私だけの特権の朝を。






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