幼なじみ、じゃない。
…このままじゃ、まずい。
言っていることだけを聞けば良い人のように聞こえるけど、その人の顔をみるとニヤニヤと口角が上がっているのが見えて、冷や汗が垂れる。
「っ、はなして……」
人ごみで、必死に絞り出した声はかき消されてしまって希望がどんどん薄れてくる。
恐怖で涙がじわりと浮かんで、地面に零れて落ちそうになるのをぐっと堪えた。
……なにも、見えない。
周りには私たちが知り合いだと思われているのだろうか。疑うこともなくすっと通り過ぎる人たちばかり。
「……はなして……」
「ーー触んな」
声にしたのは、どちらが先だったか。たぶん同時。
だけどその声は、自分のものよりもはっきりと耳に届いた。