幼なじみ、じゃない。
ー要するに、私は逃げたの。
自分の気持ちから。涼の言葉から。
だけど逃げたって、失恋したことは変わらない。
涼には、私の気持ちは伝わってないからそんな私の心は分からないだろうけど。
『ーーーいるよ』
思い出すだけで、胸がズキリと痛む、記憶。あんな思い、もう二度としたくない。
そして私が涼に告白したとしても、フラれて気まずくなって、“幼なじみ”の関係が崩れるだけ。
ーだったら、この気持ちは涼には隠し通す。
ずっと、心の内に閉まっておく。
次の日にも、また次の日にも、
『おはよう!涼!』
そう一番に言い合える、“隣の家に住むただの幼なじみ”
その関係をずっと終わらせないでおこうって、決めたんだ。
ー涼には、好きな人がいるから。
落ち込んでいる時は「がんばれ!」といって、その人と上手くいった時には「おめでとう!」と笑顔で言える、そんな幼なじみになろうって。
その方が、ずっと良い。
ー私からその関係を崩そうとしないかぎり、絶対壊れないものだって思うから。
「ふあ……ねむ」
こっそり見るときの君の横顔は本当に綺麗。
その瞳には、憂いのようなものが写し出されていて。
「あはは、涼、昨日ちゃんと寝たの?」
「…………、うんたぶん」
ずっと前を向いたまま。……ほら、君の瞳が私に向くことはない。
ーーねえ、君の瞳には誰が写っているの?
『ねえ、涼の好きな人って誰なの?』
『…………、教えない』
……教えてくれさえすれば、ちゃんと諦めがつくのに。何回聞いても君は絶対、教えてくれないよね。