僕の隣には吸血鬼の藤堂明日香ちゃんが・・・

吸血鬼の屋敷に招かれる

 「じゃあ、ついてきて」
 と、明日香ちゃんは、いかめしい門を通った。僕もあとからついていった。
 そこはうっそうと草がしげった、庭だった。枯れ木が不気味にそそりたっていた。
 「まるで吸血鬼の住んでいる屋敷の庭みたいですね」
 と、僕はいった。
 「吸血鬼の住んでる庭みたいでしょ」
 と、明日香ちゃんはいった。
 僕は笑った。明日香ちゃんも笑った。僕と明日香ちゃんは、吸血鬼の住んでいる庭みたいな庭を歩いて行った。庭はいかにも吸血鬼が出そうで、不気味極まりなかった。
 「ほんとに吸血鬼が出そうな庭ですね」
 「ほんとに吸血鬼が出そうな庭でしょ」
 と、明日香ちゃんはいった。
 そうして、僕たちはドアについた。明日香ちゃんは黒く長いカギを取り出した。ずいぶんクラシカルなかぎだ。それをドアのカギ穴に差し込んだ。がちゃ、と鍵が開いた。明日香ちゃんは、カギをしまった。明日香ちゃんはドアを開けた。中へ入った。明日香ちゃんは振り向いた。
 「どうぞ」
 と、明日香ちゃんはいった。
 「お邪魔します」
 と、僕。僕は明日香ちゃんちへ入った。
 「僕も家の人に招かれないと、人んちに入れませんよ」
 と、僕。
 「え、あなたも吸血鬼だったの?」
 と、明日香ちゃん。
 「あは、違うよ。普通の人間。普通の人間だって、招かれないのにその人の家に入ることはできませんよ」
 「そうなんだ。普通の人間もその家の人に招かれないと、その人の家に入ることができないのね」
 「そうだよ。普通の人間だって、その家の人に招かれないのに勝手に入ったら、不審者だよ。通報されてしまいますよ」
 「うふ。そうなんだ」
 「そうだよ。でもなんで」
 「だって吸血鬼は家の人に招かれないと、人の家に入れない。ということは、人の家に招かれないと入れないのは、吸血鬼じゃない?」
 「なるほど」
 しかし、待てよ、僕は人の家に招かれないと、人の家に入れないわけだよなあ。で、人の家に招かれないと入れないのは、吸血鬼なんだよなあ。ということは、僕は吸血鬼なのか。
 「うーん」
 「何を考えているの?」
 「家の人に招かれないと、その人の家に入れない僕は、吸血鬼なんでしょうか」
 「え、あなたって、吸血鬼だったの!!!!!????」
 「え、えーと、僕は、人の血を求めたりしません」
 「つまり血は飲まないわけね」
 「うん」
 「じゃあ、吸血鬼じゃないんじゃない?」
 「ああ、やっぱり」
 やはり、僕は吸血鬼ではない。
 「でもおかいしな。人の家に招かれないと、人の家に入れないのは、吸血鬼なんじゃあ」
 「そうね」
 と、明日香ちゃん。
 「変ねえ」
 と、明日香ちゃんはつづけた。
 明日香ちゃんは靴を脱いで、あがった。
 「どうぞ」
 と、明日香ちゃん。僕も靴を脱いで、あがった。明日香ちゃんは廊下を歩いた。
 
 
 
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