一途な気持ちは止められない

「やっぱり、渡邉さんは藍くんを横取りしようとしていたのかな……」

 藍のことを想うと胸がキュッとなり、寂しさがこみあげてくる。



 もし、もし藍が彩の元へ行ってしまったならば―――。


 そんなことを考えると心臓が押しつぶされそうになる。




 『いや、だめだめ、藍くんが言っていたことを思い出さなきゃ、人のことを悪く言っちゃいけない』


 考えを思い直していたら、教室の後方ドアがガラガラと鳴った。





「夏菜子?」





 ドアの方を見ると藍が立っていた。


「藍くん!」


 勢いよく立ち上がって、藍に抱き着いた。




「夏菜子から抱き着いてくれるなんて初めてじゃない?」





 そう言って頬にキスをする藍。





「そんなことじゃなくて、どこに行っていたの? 何かされたんじゃないかって凄く心配したんだから!」


「渡邉さんに勉強を教えてくれって言われて、断るのに時間が掛かっちゃったんだよ」




 夏菜子と藍を引き離そうとしたんだ、そう直感した。


「ねえ、渡邉さんと一緒にカフェに行くのやめる。

 他の人たちがニヤニヤ笑ってたのよ、私に嫌がらせをしようとしてるんじゃないかな」


 不安になった夏菜子は藍にしがみついたままそう声かけるが、



「人のことを悪く言っちゃいけないよ」



 藍はそう言って少し悲しげな顔で夏菜子の頭を撫でるだけだった。
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