エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
7.離れたくない
朝がやってきた。ベッドに博已さんの姿はない。リビングで物音がするので出勤の準備をしているのだろう。昨夜はおそらくソファで休んだのだ。
パジャマのまま寝室を出ると、ほとんど仕度を終えた博已さんがいた。
「おはよう、ございます」
「おはよう」
博已さんはさっと目を伏せ、鞄を持つ。
「行ってくるよ」
「はい。いってらっしゃい」
こちらに向けた背中は冷たく見え、まるで拒絶されているよう。目だってほとんど合わなかった。少なくとも今は対話をできる状況ではなさそうだ。
昨晩の出来事は少なからずショックだった。
博已さんは文化振興のためにイタリアにやってきたんじゃない。スパイのような密命を帯びて、この国にやってきた。
妻が必要だったというのも、おそらくはカモフラージュだろう。私とあちこち出歩いたのも、ローマの街の調査や、政治的な情報収集の一環だったかもしれない。
そして昨晩、博已さんは目的の人物に会う大事な機会だったのだ。
私は妻としての役割を果たしたつもりが、知らず余計なことをしてしまった。機密事項らしいメモを、見てしまった上で相手に返してしまったのだ。
私のせいで博已さんまで監視対象になってしまったらどうしよう。彼の仕事の妨げになったらどうしよう。