エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
『ぎゃあっ!』

次の瞬間衝撃と背後の女の叫び声。私は女の肩にぶつかって弾き飛ばされ、狭い廊下の壁に激突した。
床に膝をついて、急いで顔をあげればそこには博已さんがいた。半地下になっている出入口の上、一階部分から様子をうかがって飛び降りたようだ。女は博已さんに踏みつぶされ、あがいている。ナイフを探そうと手をばたつかせているが、そのナイフはとっくに博已さんの手の中だ。

「俺の妻に、よくも!」

日本語で叫んだ博已さんに男が対峙する。

『てめえ』

スラングでののしりながら男がポケットに手を入れた。息を飲む間もなく、男を背後から羽交い絞めにして制したのは堂島さんだった。外から入ってきたので、博已さんと挟み撃ちの格好になったようだ。

『うちのエージェントをどこに連れていくつもりだった?』

堂島さんがにっと口の端を引いて笑い、そのまま男を床にうつ伏せに引き倒した。その後ろから、会場警備を担当していた警察官がどやどやと入ってくる。
男女はあっという間に確保され、外の車で待機していた男ふたりも身柄を押さえられていた。そのうちひとりはスーツこそ着ていなかったが、以前会食でメモを落とした男だ。私が秘書のひとりだと思ってメモを拾った男。

「菊乃! 怪我はないか?」

博已さんが私を助け起こす。私は必死に頭を整理しながら、こくこくと何度か頷いた。

「乱暴な方法で割り込んですまない。女がナイフをきみから離す一瞬をうかがっていたんだが、こんな形になってしまった」
「大丈夫……。博已さんは? 怪我はないですか?」
「ああ、俺は」

私は自分の腕にべったりと血がついているのに気付いた。その血は博已さんの手のひらからは流れている。どうやらナイフを取り上げる瞬間、刃の部分をつかんだらしかった。一文字に切り傷がついている。
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