エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
「パーティーは時間稼ぎか。そんなにうまくいくか?」
「数時間の拘束で何ができるかわかりませんが、しないよりマシでしょう。それに、外務省職員家族が拉致されかけたと公になるのは好ましくない。国家同士の問題としても、外務省としても」

博已さんがこちらを振り向いて尋ねる。

「菊乃、きみが大変な目に遭わせたのに、この件は隠匿しなければならない。許してくれ」
「もちろんです! 私が原因で外交問題になったら大変です」

しかし、博已さんは怪我をしているのだ。縫わなければならない深さだったらどうしよう。
私の心配そうな顔を見て、博已さんはかすかに笑った。

「ちゃんと手当してからにする。安心してほしい。ただ菊乃は控室を用意して警備をつける。そこで待機してくれるか」
「わかりました!」
「いやあ、菊乃さんは立派なエージェントだよ。肝が据わってる」

堂島さんがにやりと笑い、私はさっきも同じ言い回しをされたことに思い至った。そうか。乱入するタイミングを計っていたということは、私のはったりも聞こえていたのだろう。犯人相手に、私こそが外務省のエージェントだと言い張ったのだ。
私は途端に恥ずかしくなって、「忘れてください」と蚊の鳴くような声でつぶやいたのだった。


出演者用の控室で、博已さんは手当を受けた。幸い縫わなくてもいいそうで、大きなテープと包帯を巻いて治療は終わり。替えのシャツは他の職員が買ってきてくれた。博已さんが手当などで遅れた時間は、同僚の伊藤さんらがパーティーを仕切ってくれていたそうだ。
私は控室でそのまま待機となった。堂島さんや警察官が警備に立ってくれていたそうだが、このあたりから私の記憶は曖昧になっている。
ホッとしたせいもあってか、抗えないくらいの眠気がやってきて、身体を起こしているのがつらい。
やがて、その記憶も途切れた。
夢の中で博已さんの声が聞こえ、彼が私を抱き上げた感触があった。

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