エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
10.ふたりで誓う未来
コンサートの一件からひと月が経った。菊乃と俺の生活は平穏を取り戻している。
季節は年の瀬。ローマの街は十一月後半からクリスマス、こちらの言葉でナターレの準備が始まった。カトリック教徒にとってナターレのおとずれは十二月八日、聖母マリア受胎告知日のミサからだそうだ。イルミネーションが煌めき、どことなく浮かれたムードになるのは日本と変わらない。もちろん、宗教や風習としての行事なので日本のクリスマスとは大きく違うのだろう。
「年明けに奥様と挙式なんですか」
大使館からの帰路、伊藤と一緒になった。伊藤は独身で単身イタリアに来ている。俺も二十代の頃はそうだった。
「ああ、最初は挙式するつもりがなかったんだけれど、お互いの両親が挙げた方がいいと勧めるからね」
実際は俺が菊乃のウエディングドレス姿を見たいだけなのだが、妻にべた惚れという事実は恥ずかしくて口にできないので黙っておく。
「そのほうがいいですよ。独身の俺が言うのもなんですが、結婚式って最高の記念になるじゃないですか。女性はウエディングドレスを着るのが夢って人もいますし」
これから外で菊乃と待ち合わせなので、近くのバールに入る。伊藤も一杯飲んでいくというので、エスプレッソをふたつ注文した。この店も立ち飲みが基本。こちらにきてそういったスタイルも慣れてしまった。なお、イタリアでカフェ、コーヒーというと大抵エスプレッソが出てくる。
「でも現地人じゃない外国人が結婚式をできる教会って少ないですよね」
「教会はそもそも宗教的な施設だから仕方ないな。俺たちもカトリック教徒じゃないし、海外ウエディングを斡旋しているプランナーを頼ったよ」
そもそもイタリアでは結婚式を教会、もしくは役所で挙げるのが一般的だそうだ。
役所というのはなかなか驚いたが、歴史的建造物であることが多い役所はそれだけで風情があるし、何よりも費用がかからないため人気があるらしい。