エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
2.加賀谷博已は外務省勤務である
外務省、国際情報統括官組織第五国際情報官室。この長い名称の部署が俺・加賀谷博已の職場だ。大学卒業と同時に入省し、今年三十五歳になる。海外勤務経験は二十代の頃に一度。それ以降は省内で着実に経験を積んできた。キャリア形成は順調と言えるだろう。
「ヨーロッパですか」
「ああ、半年後だ。どこになるかは決定次第連絡する」
上司である真野室長はデスクで手を組み、正面に立つ俺を見上げた。
「二十代の頃はスペインだったな」
「はい。三等書記官として」
「今回は一等書記官として赴任することになる」
真野室長の目がきらんと光る。
「加賀谷、おまえの業務内容はわかっているな」
「はい。表向きは文化振興、交流を主業務とします。平行して……」
「情報収集、対人諜報活動を行ってもらう」
にっと微笑んだ上司は、ごくごく当たり前のこととして諜報活動という言葉を口にした。
俺の職場である第五国際情報室は公的なスパイを養成、派遣している部署だ。新聞やネットでなんでも情報が取れる時代だが、情報は生ものである。現地の空気を知り、現地の人間と交流することで得られる情報は、いつの時代も重宝されている。
文化交流の名目で現地の人脈を作り、政府関係者との接点を増やし、情報を得る。これが俺に求められている仕事である。
「大使館内の他の職員はおまえが第五国際情報室の人間だと知っている。何が主目的かは察してくれるだろう」
真野室長は言葉を切り、うかがうような口調になる。
「ところで加賀谷は独身だったな。セクハラだと思わずに聞いてほしいんだが、もし恋人がいるならこの機会に結婚して連れていくのも手だぞ」
「結婚ですか……」
言いたいことはわかる。妻帯者の方が自然と現地で動き回れるからだ。散歩の名目で連れ立って歩き回ってもいいし、パーティーなどの社交の場もなじみやすい。大使夫人を中心とする職員家族のコミュニティもあり、大使館内の情報は妻が持ってきてくれる場合もある。