エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
「私……男性とご縁がなかったので、親しい男女の距離というか、上手にできているかわからなくて。イタリアで夫婦としてパーティーなどに出る機会もあるなら、あまり距離があるのは不自然かなあって。あの、もっと常日頃から接触をしてみるのはどうでしょうか」

俺は手にしていたコーヒーの紙カップを握りつぶしそうになった。接触。それはどこまでのことを言っているのだろう。
これは菊乃なりの誘いだろうか。
内心の狼狽を隠し、俺は涼しい顔で答える。

「いいよ。確かにきみの言う通りだ」
「あ、あの、毎日握手をしてみるのはいかがでしょう!」

勇気を振り絞ったといった様子の菊乃に、俺は一気に脱力しそうになった。
握手……。男性と交際経験がないのは聞いていたが、そうか……握手からスタートか。
しかし、すぐに期待をふくらませすぎた自分の卑しさを恥じた。初心な彼女が妻の役割を果たすために、頑張ろうとしてくれているのだ。
握手で満足……しなければいけないのはわかっている。

「ああ、握手はいい案だ。だけど、恋人らしい距離かは……」

俺は大人の余裕を表情に乗せる。下心がはみ出さないように、なんでもないことのように。
すると、菊乃が頬を赤くして言った。

「じゃ、じゃあ、ハグはどうでしょう! 毎日、習慣として握手とハグをするんです!」

誘導してしまった気がする。そんな罪悪感を覚えつつ、喜びに勝てなかった。

「ああ、そうしようか。きみが嫌じゃなければ」
「嫌じゃないです! 博已さんこそ、嫌じゃないですか?」

嫌なわけないだろう、と大声を出しそうになった俺は、精一杯落ち着いた低い声で「問題ないよ」と答えた。

互いの両親に挨拶が住んだら、婚姻届を出すと最初から決めている。ようやくハグと握手の約束を取り付けただけの関係ではあるが、俺と彼女はもうじき、書類の上では夫婦になる。

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