エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
「ああ、そうだったね」

俺は平静を装い、菊乃に右手を差し出した。菊乃の小さな手が俺の手と触れ合う。そっと握ると菊乃の頬にかーっと朱がのぼった。

「次は?」

尋ねると、菊乃の方からおずおずと俺の胴に腕をまわしてきた。
細い身体をそっと抱き寄せる。初めての抱擁に心臓がおかしくなりそうだ。
ふわっと香る菊乃のシャンプーの香りがあまりに新鮮で、俺は彼女の耳元でささやいた。

「もしかして、シャワーを浴びたのか?」
「は、はい! だって、ハグするのに汗臭かったら申し訳ないです! 寝汗とか、あと家事でも汗かいちゃうし!」

そんなことまで気にしていたらしい。俺は少し笑って言った。

「毎回シャワーを浴びていたら手間だろう。気にしなくていいのに。俺だって寝起きそのままだよ」
「え、でも」

菊乃がくんくんと俺の胸に鼻っ面を押し付ける。

「博已さんはいい匂いがします」

俺はあわてて彼女の身体を引きはがした。赤くなりそうで彼女の顔が見られない。顔をそらして言った。

「そういう言葉は男性を煽るので気をつけなさい」
「え、ええ? す、すみません!」

驚いた菊乃がざざっと後ろに下がった。よかった。このまま菊乃と密着していては、変な気を起こすところだった。

「ブランチ、仕上げをしてきますね!」
「ああ」

エプロンを巻きながら、キッチンにせわしく入っていく菊乃から目を背け、俺は顔を洗いに行った。こんな調子で大丈夫だろうか。理性ある大人として、間違いのない行動をしなければ。
暴れる心臓の音を聞きながら、改めてそう思うのだった。
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