エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
当時私が希望していた英語を活かせる職は、アルバイトや臨時雇用ばかり。奨学金を返すためにも安定した就職先は必須だった。両親も伯父の会社なら安心してくれるだろうと、マルナカ弁当に入社させてもらった。
仕事は楽しいし、伯父も伯母も私を信頼してくれている。社員寮のおかげで、ゆとりが生まれて奨学金の返済やわずかながら貯金もできる。
本当はもっと英語や他の外国語を勉強したかった。仕事にできるくらいの語学力を身に着けたかった。
しかし、それはお金をためていつか自分で再び学校に行けばいいのだ。夢がついえたわけじゃない。少し先になっただけ。
今は伯父夫妻への恩返しとお金を貯めるために、仕事を頑張る時期だと思っている。

「おい、菊乃」
「はい」

経理に出す書類を作っていると声をかけられた。デスクの横に立っているのは従兄の正(ただし)さんだ。私より五つ年上で、痩せた身体を仕立てのいいスーツに包んでいる。眉間にはいつもの皺。

「おまえがやってなかったアルバイトの勤怠管理、俺がやっておいたからな。後回しにするんじゃねえよ」
「ありがとうございます。でも、総務の曽根さんが一月からまとめてやってくださってるので、お渡しする予定でした」

苛立った口調で話しかけられるのはいつものことなので、私も臆したりしない。媚びたり、機嫌を取るつもりもないけれど、好戦的な態度も示さない。なるべくフラットでいることが、この怒りっぽい従兄と渡り合うやり方だと思っている。

「はあ? 俺、そんなの聞いてないけど?」

声高に言われ、私もなんと答えたものかと迷う。日比谷公園前店の勤怠管理は責任者の私が担当しているので、本社の営業担当の正さんが手を出すことではない。そもそも、一月の時点で私や他の店舗責任者と、総務の間で話がついていることだ。どうして関係ないのにかき回すようなことをするのだろう。
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