エリート外交官は契約妻への一途すぎる愛を諦めない~きみは俺だけのもの~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
5.イタリアへ
私たちが契約夫婦を始めたのが三月。正式に入籍したのが五月。季節は夏になり、あっという間に八月が終わる頃になっていた。八月の最終週に私と博已さんはイタリアに立つ。
今日、私はマルナカ弁当日比谷公園店にやってきている。出国前のあいさつを兼ねて外出先の帰り道に寄ったのだ。今夜は元自社のお惣菜に頼る予定でもある。
マルナカ弁当における私の名誉回復は、伯父によってなされた。朝礼で私の解雇が不当であったことを自ら報告し、私に復職を求めたという旨だ。私の結婚も報告され、パートの和田さんたちからは伯母づでに大きなお花とメッセージカードをもらった。私の名誉回復にはパートの和田さんたちの力も大きかったに違いない。お返事と返礼のお菓子を贈った。
正さんはあれ以来、会社にも実家にも戻っていないそうだ。伯父も伯母も勘当だと言っていて、マルナカ弁当に彼の戻る場所はない。これでよかったのだと思う。正さんはあそこにいる限り、変われないだろうから。
店についたのは昼営業が終わる十四時半ぎりぎり。奥で片付けをしていた清原さんが挨拶にでてきてくれた。
「あっという間でしたね。準備期間」
「本当に。語学研修やマナー研修を三ヶ月半受けて、パスポート作って、もう出国だから早いよね」
「お勉強、大変でしたねえ。イタリア語は完璧なんですか?」
清原さんの無邪気な質問に私は苦笑いだ。
「基礎をやっただけなんだ。現地で生活するために必要な最低限のやりとりができるって感じ。英語もあらためて講習してもらえたのがよかったかな」
「そっかぁ。もともと菊乃さんは英語できましたね。お店に日本語がわからないお客様が来ると菊乃さんがささっと対応してくれるんで助かりましたぁ」
清原さんは私を菊乃さんと呼んでいる。戸籍上、私はもう加賀谷菊乃で、小枝じゃないものね。