敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜
(陛下は既婚者で何人もの奥さんがいらっしゃるみたいだから今更結婚に焦る必要もないものね。……私の方は初婚だけど)
オーレリアは自分のことを顧みてもらえていないことに少しだけもやもやとしてしまったものの、事情が事情だけに仕方がないと自分に言い聞かせた。
するとトラヴィスが困ったように微笑む。
「別に無理強いをしているわけじゃないから、そんなに思い詰めないで欲しい。気が乗らないのなら断ってくれて構わない」
「そういうわけでは……」
「だけどこれだけは言わせて欲しい。あなたの神の恵みは本当に素晴らしい力だと私は思っている。だってその力は誰も傷つけない、誰かを幸せにするための力だから」
オーレリアは目を見開いてトラヴィスを見つめた。
(誰も傷つけない、誰かを幸せにする力?)
初めてそんな風に言われて息を呑む。ルパ王国のお城では役立たずと罵られ、紛いものだとまで言われていた力なのに。
トラヴィスの捉え方はまるで違う。そしてトラヴィスが本心からそう話してくれていることも赤い瞳を見ればすぐに分かった。だって、そこには王妃やコーレリアの用な侮蔑の色はどこにもなかったから。
これまで自分の神の恵みを卑下して思い悩んでいたオーレリアは、トラヴィスに背中を押してもらったことで肩の力を緩めることができたような気がした。
ふうっと息を吐いてから胸の上に両手を重ねる。
「ありがとうございます。そんな風に言われるのは初めてで……とても嬉しいです」
オーレリアは目を伏せるとトラヴィスの言葉を噛みしめる。