敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜
皇帝と面会ができる。やっと人生が動き出したというのに、どうしてそんな風に思ってしまったのだろう。
物思いに耽りながら歩いていると、前を歩くトラヴィスが立ち止まって身体をこちらに向けてきた。
「数日前からこの廊下は改修工事に入ってる。足下が悪いから気をつけて」
注意を促すトラヴィスはオーレリアが転んでしまわないようにと手を差し伸べてくれる。
オーレリアはお礼を言うとその手に自身の手を重ねた。しっとりとした手に伝わってくるトラヴィスの温もり。初めて手を繋いだことに気がついたオーレリアの頬はカアッと熱くなった。
トラヴィスはいつだってオーレリアに優しく接してくれて温かい言葉を掛けてくれる。それまで暮らしてきたルパ王国では役立たずや紛いものだと罵られ周りからはいないもの扱いされてきた。
唯一存在を認識していたのは気まぐれに虐めてくる王妃とコーレリアの二人だけ。
けれどトラヴィスは違う。彼はオーレリアを傷つけないし、蔑まない。一人の人間として大切に扱ってくれる。
(優しいトラヴィス様がこれからも隣にいてくれたら……いいえ、彼の隣にいられるのが私だったらどんなにいいか)
心の底から強く願うオーレリアは、心の中であっと声を上げた。