敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜
(そっかあ。私、トラヴィス様のことが好き。…………ずっと前から好きだったのね)
眠れないほど悩んでいた胸の痛みの答えがあまりにも簡単にすとんと落ちてくる。それと同時に絶望がオーレリアの心を襲った。
皇帝の側妃となるオーレリアにとってトラヴィスは義理の息子となる相手だ。オーレリアが恋心を抱いていい相手ではない。
だから今まで自分の気持ちに気がつかなかった。――否、気づかないふりをしていたのかもしれない。
(……今更そんなことに気づいてどうするの。私は陛下の側妃になるし、トラヴィス様には運命の相手――ビクトリア様がいらっしゃるのよ。彼の幸せを願うなら、運命の赤い糸が見えたことを伝えて祝福しなくちゃ。……そうしなくちゃ、いけないのに)
オーレリアは口を引き結んだ。言わなくてはいけないのに言いたくない。
だって運命の相手であるビクトリアのことを話せばトラヴィスとはもうこうして会えなくなる。そして彼の心はビクトリアへと向かうだろう。
いや、昨日の様子からしてトラヴィスの好意は既にビクトリアへ向いているかもしれない。
「オーレリア王女、どうして泣いているんだい?」
「……え?」
トラヴィスに指摘されて初めてオーレリアは頬が濡れていることに気がついた。