敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜
皇帝が療養しているのは宮殿の隣にある小宮殿の一室だった。トラヴィスから先に一人で挨拶するよう促されて、オーレリアはベッドに横たわる皇帝のところまで歩いて行くと深々と頭を下げて挨拶をした。
「帝国の太陽にご挨拶を申し上げます。オーレリアにございます」
ベッドボードとの間に背もたれのクッションを敷き、上体を起こしている皇帝は思ったほど顔色は悪くなかった。
初めて皇帝の顔を見たオーレリアは、クラウスは皇帝似だったんだというどうでもいい感想を心の中で述べる。狒々爺だという話をコーレリアから聞かされていたけれど、皇帝は好々爺という言葉の方がしっくりくる。とはいえ、厳かな空気を纏っているので一瞬たりとも気を抜くことはできない。
「こちらに呼び寄せておきながら長い間会うことができなかったことは詫びよう。漸く王女と会うことができて、余は非常に嬉しく思う」
「私も陛下とお会いできて光栄にございます」
オーレリアはお腹にグッと力を込めて息を吸い込むと言葉を紡いだ。
「陛下、三年もの間お会いできなくて大変心配しておりました。私は家族の一員ではないので面会することも許されず、側妃としてお仕えすることもできなくて。……もどかしい日々を過ごしておりました」
側妃という言葉を口にしてしまった以上はもう後戻りはできない。
オーレリアは皇帝に挨拶をし終える間際まで側妃になることに抵抗感を覚えていた。しかしこのまま有耶無耶にしてしまっていては一向に前に進めない。