敵国へ嫁がされた身代わり王女は運命の赤い糸を紡ぐ〜皇子様の嫁探しをさせられているけどそれ以外は用済みのようです〜


 まさか自分の夫になる人と顔合わせすることができないなんて。
 ルパ王国もハルディオ帝国も結婚式で教会が用意した誓約書にサインをし、神官の前で愛の誓いを立てなければ夫婦とは認められない。

 皇帝が重病では結婚式をして側妃になるのは当分先になるだろう。
 今のオーレリアは敗戦国からやって来た王女というだけのなんとも中途半端な立場にあった。


 役立たずだと罵られ、王妃とコーレリアから虐められるだけの日々を送ってきたオーレリアにとって皇帝のもとに嫁ぐことは自分に新たな価値を見いだせる絶好の機会であると信じていた。
 どんなに年の離れた相手であろうと、好色家で既に何人もの奥さんがいようと誠心誠意仕えると心に決めていた。
 ところがそれも叶わず、ここでも役立たずの烙印を押されたような気分になった。

(誓約書にサインして愛の誓いを立てなければ陛下の側妃にはなれないし、家族でもないから会うことも許されないわね)


 俯いてスカートを握り締めていると、トラヴィスが気遣わしげに声を掛けてくる。
「とにかくソファに腰を掛けて」
 言われた通り素直に腰を下ろすと、部屋の隅で控えていた青年がカップにお茶を注いでくれる。

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