― 伝わりますか ―

◆未来 [終]

 無束院の縁側に、宵闇が広がり始めていた。

 右京は明心との話を終え、独り中庭に佇む一本の桜の木を見詰めていた。春には華やかなこの木も、秋の始まりには森の一部にしか過ぎない。

「……右京……様?」

 いそいそと障子を開いて、背後から遠慮がちに声を掛けたのは、少し肌に蒼みを残した秋であった。

「気が付きましたか」

 憂いに満たされた右京の顔に、(へや)の灯りが零れて、その表情に()が点った。しかし秋の唇は震えたままだ。

「あの……おじじ様と、(あに)(さま)は……?」

 右京に促されて隣へ腰掛けた彼女の瞳は、これから聞かされる真実に怯えていた。が、明るさを取り戻した右京の顔つきは変わらなかった。良い知らせを抱えていたから。

「お二人共、ご無事だそうです。柊乃祐(しゅうのすけ)さん──あの応援に向かった助手の方は未だ戻られませんが、弥藤多(やとうた)さんという少年が遣いを頼まれ、伝えてくれました。もう心配は要りません」

 もちろん影狼の偽りと……そして善意である。秋はそれを耳にして、

「そうでしたか。……良かった」

 と、ほっと一息胸を撫で下ろし、安心したかのように目を閉じたが、それきりじっと動かなくなってしまった。口元は依然きりりと閉じていながらも震えている。


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