― 伝わりますか ―
「……どうかしましたか?」

「あのっ……これで本当に良かったのでしょうか?」

 まるで右京からの問い掛けを待ち侘びていたかのように、(せき)を切って疑問を投げた秋の面持ちは、心からの悲痛な叫びを表していた。

「え……?」

「私は……おじじ様どころか、右京様までも巻き込んでしまいました。あのまま──信近様を受け入れていれば、こんなことには──……私は……」

 秋の睫が涙に濡れた。それは頬を伝って、ぎゅっと握られた手の甲に落ち、ひんやりとした感覚を与えたが、刹那、次に感じられたのは、包み込むような温かみであった。はっとして眼を開いた秋の視界には、自分の手を握り締める大きな手と、そして隣に優しい右京の微笑みがあった。

「姫……あ、いえ……秋。もしも私が今でも橘の当主であったなら、私は必ずやあなたを伴侶にと、伊織様に申し出ていたに違いありません。ですが私があなたに出逢った時、既に家を失っていた。あの時私は全てを諦めたのです。そんな私にあなたは機縁を与えてくれた……全てを失ってまで、私について来てくれようとしているのは──秋の方ですよ」

「右京……様──」

 涙が零れることも構わず、大きく見開かれた秋の瞳には、眼を細め、更に微笑んだ右京が居た。

 彼女の頬を優しく撫でてやる。熱を保ち、凍ってしまった涙を溶かしてくれるそんな手。

「右京様」

 胸の中で包んでもらう。温かな手を持った人の胸はどれほど温かであろうか。


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