― 伝わりますか ―
しばし待ってみても返事をする気配がないのに気付いて、彼は少し不機嫌になった。蝉は何処かへ消えたらしく物音一つなく、ひっそりとした山に戻る。その者は緩やかに彼と視線を合わせ、哀しみを含んだ瞳のまま首を縦に振り、俯いて唇を噛みしめた。蒼白な肌が情を映し始めていた。
「……お、し……」
そのまま彼は絶句した。
再び蝉の声がうるさく耳を責める。
「……すまんっ」
無造作に床の側に腰を下ろす。それが彼の流儀なのだろう。垂れてしまった首からは“すまない”という気持ちがありありと表れていて、その者にもそれは十分に伝わっていった。
しばらくそうしたまま時が経って、のそのそと顔を上げてみるや、その者は薄く笑み、かぶりを振った。
「わっ、わしの名は悠仁采っ! 八雲 悠仁采だっ!」
その者に魅せられたように、慌てて名を明かす。悠仁采二十三歳。未だ悪には侵されていない。
ゆうじんさい様……ゆうじんさい様……。
声にならない唇で何度も繰り返す。
悠仁采様……悠仁采様……。
「……お、し……」
そのまま彼は絶句した。
再び蝉の声がうるさく耳を責める。
「……すまんっ」
無造作に床の側に腰を下ろす。それが彼の流儀なのだろう。垂れてしまった首からは“すまない”という気持ちがありありと表れていて、その者にもそれは十分に伝わっていった。
しばらくそうしたまま時が経って、のそのそと顔を上げてみるや、その者は薄く笑み、かぶりを振った。
「わっ、わしの名は悠仁采っ! 八雲 悠仁采だっ!」
その者に魅せられたように、慌てて名を明かす。悠仁采二十三歳。未だ悪には侵されていない。
ゆうじんさい様……ゆうじんさい様……。
声にならない唇で何度も繰り返す。
悠仁采様……悠仁采様……。