― 伝わりますか ―
 この頃、水沢龍敏と織田信長の父信秀は戦争状態にあった。

 後の信長の血気盛んには程遠いが、それでも領土拡大のため、織田軍は小さな(いくさ)を繰り返していたのだ。

 初期は隣接といっても、ほんの小さな郡だけを吸収してきた信秀だが、ついには水沢家に目を付けるに及ぶ。

 今、美禰は籠城し休戦状態にある──大方、逃がした姫の侍女が遺体ででも見つかったのであろう。

 水沢と織田の両家は、今頃血眼になって姫を探しているに違いない。ならば。彼女をこういう状態にした織田家の方が有利だ。

 ──月葉、お前はどうするつもりなのだ。

 静かに微笑む月葉と視線がかち合い、彼はどういう表情も出来ぬまま背けてしまった。

 ──もう、時間がない。

 しかし、彼はこの状態をどうすべきか決めかねていた。

 以前、里へ向かっていた諜者が戻ってきた時、こんな話をしたことがある。

 その話──。


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