― 伝わりますか ―
「……では、どうするおつもりなのですか」

 身体の汚れを(ぬぐ)い一息ついたその日の晩。月葉が寝入ってから、諜者となった側近は見聞した世の情勢全てを悠仁采に聞かせ、そしてその(のち)(かげ)りのある口調で、剃ったばかりの顎を(さす)りながら尋ねた。

「わしには三種の道がある」

 側近につられてか、彼も何心なく(おとがい)を掴む。

「と、申しますと?」

 “分かっておろうに”と皮肉めいた台詞(せりふ)を吐いてから、悠仁采は歪んだ口元を引き締め本題に入ろうとする。遠近全てからささやかな虫の声が聞こえていた。これがひとときの幸せであるのかも知れない。

「まず一つは月葉を差し出すということだ。このまま(かくま)っていても数日もすれば暴かれる。ならばその前に引き渡してしまえば良い。すれば恩賞あること間違いないだろう」

 一口ぐいっと酒を呑み干した彼は、そのまま下を向いた。


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