― 伝わりますか ―
「月葉っ!」

 全ては一瞬でありながら、また同時にとてつもなく長い(とき)であった。

 閃光──現実には、誰が射ったかも分からない、何処からか流れきた矢である。標的は確実に月葉の頭蓋であった。

「月っ──!」

 今一度叫ぶ。いや、叫びさえ途中で止めなければならないほどに流れ矢は刻々と彼女に近付き、悠仁采はやっとのことで辿り着いた腕を彼女の頭部に伸ばした。間一髪、月葉の頭上すれすれを通り過ぎた矢は、しかし左へ反れようと身をよじった悠仁采を次の照準に迎える。

 走馬灯のように速く、全ての動きが彼には見て取れた。己の顔面を襲う矢の先までも、矢の速度までも、そして矢の力までもが。

「……うぐっ」

 彼は(うめ)く。

 月葉に伝わったものと云えば、彼の優しさや温かみや愛ではなく、鎧の冷たい感触であった。が、鎧は何も教えてはくれない。代わりに彼女の頬へ彼の状態を示したのは、ほとばしる真っ赤な血液であった。

 流れ矢は寸分の狂いもなく、彼の右眼を貫いていた。


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