― 伝わりますか ―
「くっ……」

 悠仁采は満身の力を込めて矢を引き抜いた。一瞬左眼の視界が(くれない)に染まる。虚空を眺めると明らかに視野が狭まっている。どうやらこの矢は月葉を、もしくは悠仁采に狙いを定めて射られた訳ではなく、遠方から流れてきた故、頭蓋骨に至るまでには達せず右眼だけを突いたのだ。右半身が焼けるように熱い。

「……あ……」

 まるで彼は、幻想にでも囚われているような錯覚に陥った。

 実際には満足感が彼の全身を覆っている。初めて彼女を守れたという、一種優越感にも似た満足感である。

 しかしその時再び、彼を現世(うつつ)へと(いざな)う者がいた──月葉。

 目の前で狼狽する彼女に、彼は痛みの戻ったその(おもて)で微笑し、「大丈夫だ。大した傷ではない。お前は大事ないか?」と問うた。

 悠仁采の気持ちが穏やかな分、月葉は焦っていた。自分の所為で右眼を失ってしまったのだから致し方あるまい。

 月葉は今にも泣きそうな表情のまま、詫びるつもりで悠仁采の眼から吹き出る血液を(ぬぐ)ってやった。

 その刹那──。


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