― 伝わりますか ―
「……ゆ……じ……んさ……さま……」

 ──悠仁采様。

 突如、彼の熱意が伝わったかのように、心の中で何度となく繰り返したその言葉が、月葉の唇から途切れ途切れ現れたのだ。

「……つ……月葉……お前、喋れるのか……?」

 彼は半信半疑のまま()う。彼等は戦場のど真ん中、矢の飛び交う宙を頭上にし、しゃがみ込んで次の句を失っていた。それほどまでに大きな出来事であった。

 が、幸福な時は留まることを知らず、試練を与えるのが世の常というのだろうか。

「戦い、やめなされいっ!」

 彼等が絶句している間に戦闘を中断させたのは、大きく低い良く通る声であった。それは明らかに八雲側の兵士ではなかった。

 戦士両軍皆、刀を交えたままその声の主に眼を向け、時が静止したかの如く沈黙を保つ。

 声の先からがたいの良い髭面(ひげづら)の、しかし温和な表情をした一軍師が姿を現した。この日の織田軍はこの男に任されているのだろう。


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