― 伝わりますか ―
【弐】弟切草の想い出

◆過去 [序]

◆以降は2014年に(他サイトにて)連載していた際の前書きです。

 【壱】の続編となります。こちらは初めの数話が高校時代、残りは十年前に満たない程度の作品です。

 葉隠(はがくれ)の忍者 影狼(かげろう)達により滅亡を迎える最中、過去に身を浸す悠仁采(ゆうじんさい)。その回想(【壱】)を終えた後の彼に訪れたものとは──?








 深奥 (しんおう)から鳴り響く風のような轟音と、巻き上がっては落ちていく砂塵と共に、魔妖城は今、紅蓮たる炎の中へ自ら身を沈めようとしていた。

 霧の立ち込める薄緑に淀んだ沼の、表面に描かれていく水紋の幾筋。

 時々炎を宿したまま水の中へ(いざな)われていく土塊は、じゅっと音を立て、亜麻色の身体を水底に横たえている。

 痩せ細った枯れ木を濁った空へと突き刺したその沼には、もはや映し出すものは何もなかった。地響きの終焉と共に訪れる静寂──無──。

 砕け散った城の破片を浮かべた緩やかなせせらぎだけが、小川へと通じる出口へ向かって一心に流れてゆく。

 西の空を赤黒き血で染め始めた陽は、あたかも城の緋たる火を吸い込んでしまったかのように思われた。


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