― 伝わりますか ―
◆前世 [一]
澄み通った木の匂いが彼の鼻筋を優しくなぞり、悠仁采は軽い呻き声をあげて、ゆっくりと瞼を開いた。
未だうっすらと霞がかったように周囲がはっきりとしないが、森に囲まれていないことはすぐに見て取れる。淡い榛色の視界というだけで、他には何も判別することは出来ないが、人のような気配を感じてはいた。
「兄様、おじじ様がお目覚めになりましたわ」
遠いような近いような……とにかく軽やかで優しい娘の声がする。徐々に鮮明に変わる光景に、二人の人影が映し出された。
匂いと様子で感じ取れるように、此処はおそらく茅葺き屋根の小屋らしい。ぱちぱちと爆ぜる焚き火の音が、人の住んでいることを証拠付けている。
「わしは……」
起き上がろうとはせず、ただ天井を見詰めて、悠仁采はあたかも独り言のように呟いた。
「おじじ様は小川を流れて、遠く此処までやって来られたのです」
人影の一つがこちらに近付いてくるのを感じて、その者へと目を向けた。色白の肌に長い黒髪が良く似合う、朱色の衣を着た美しい娘である。そして彼自身、良く知っている娘の顔であった。
未だうっすらと霞がかったように周囲がはっきりとしないが、森に囲まれていないことはすぐに見て取れる。淡い榛色の視界というだけで、他には何も判別することは出来ないが、人のような気配を感じてはいた。
「兄様、おじじ様がお目覚めになりましたわ」
遠いような近いような……とにかく軽やかで優しい娘の声がする。徐々に鮮明に変わる光景に、二人の人影が映し出された。
匂いと様子で感じ取れるように、此処はおそらく茅葺き屋根の小屋らしい。ぱちぱちと爆ぜる焚き火の音が、人の住んでいることを証拠付けている。
「わしは……」
起き上がろうとはせず、ただ天井を見詰めて、悠仁采はあたかも独り言のように呟いた。
「おじじ様は小川を流れて、遠く此処までやって来られたのです」
人影の一つがこちらに近付いてくるのを感じて、その者へと目を向けた。色白の肌に長い黒髪が良く似合う、朱色の衣を着た美しい娘である。そして彼自身、良く知っている娘の顔であった。