― 伝わりますか ―
◇前世 [二]
「そなたの……名は?」
精一杯の力を振り絞って唇から零れた言葉は、そのようなものであった。一瞬秋と、そして伊織と呼ばれた若武者を見詰めた右京たるその者は、悠仁采の傍らに侍り、彼の手に触れ、やがて目を伏せたまま優しく呟いた。
「橘──橘 右京と申します、おじじ様。堺の大名館、橘家の嫡男に当たる者。父の代に織田家に滅ぼされ、今では狩人として身を立てている遊び人でございます」
右京は言い終わるや途端手を離し、床についていた膝を軽く上げ立ち上がった。
──橘 左近。
既に忘れ去られた我が名を思い浮かべる。
明らかにこの青年は悠仁采が弟、右近の孫に間違いなかった。頭上で結った髪をうなじの辺りで纏め、狩人の姿から身を左近の物と移せば、その外見は若き日の悠仁采と何ら変わりはないであろう。それほどまでにこの右京は、左近と、そして双子の弟 右近に似ているのだ。
精一杯の力を振り絞って唇から零れた言葉は、そのようなものであった。一瞬秋と、そして伊織と呼ばれた若武者を見詰めた右京たるその者は、悠仁采の傍らに侍り、彼の手に触れ、やがて目を伏せたまま優しく呟いた。
「橘──橘 右京と申します、おじじ様。堺の大名館、橘家の嫡男に当たる者。父の代に織田家に滅ぼされ、今では狩人として身を立てている遊び人でございます」
右京は言い終わるや途端手を離し、床についていた膝を軽く上げ立ち上がった。
──橘 左近。
既に忘れ去られた我が名を思い浮かべる。
明らかにこの青年は悠仁采が弟、右近の孫に間違いなかった。頭上で結った髪をうなじの辺りで纏め、狩人の姿から身を左近の物と移せば、その外見は若き日の悠仁采と何ら変わりはないであろう。それほどまでにこの右京は、左近と、そして双子の弟 右近に似ているのだ。