― 伝わりますか ―
「じじ殿、秋をお許しください。なにぶん未だ子供なのです。……じじ殿のその傷、さぞや訳ありとお見受け致しました故、今は未だ深くはお聞きせずにおきましょう。──が、こちらは救った身、せめて御名だけでもお教えいただきたい」
と、先程秋が問うた事柄を繰り返した。
此処まで言われては、悠仁采も名を明かさずにはいられない。しかし悠仁采の名を言えば八雲を、左近の名を告げれば橘を悟られるのは時間の問題である。
「わしは一度死んだも同然。死ぬ以前のことを話すつもりはない。だが、名は言わねばなるまい」
悠仁采は一呼吸置き、頭の中で名についての思考を巡らせた。それはほんの数秒のことである。息を吸い込んだ虚空の時間。
「我が名は、佐伯 朱里。右近殿とは以前会うたことがあった。そなたのご祖母については、人違いであると思うが……」
朱里とは配下であった魔妖五人衆の一人 瞳炎の父、あの少女の面をした小姓の名である。言葉半ばにして途切れた悠仁采の視線は過去を浮かべていたが、向けた先には秋が居ることを彼も承知の上であった。
と、先程秋が問うた事柄を繰り返した。
此処まで言われては、悠仁采も名を明かさずにはいられない。しかし悠仁采の名を言えば八雲を、左近の名を告げれば橘を悟られるのは時間の問題である。
「わしは一度死んだも同然。死ぬ以前のことを話すつもりはない。だが、名は言わねばなるまい」
悠仁采は一呼吸置き、頭の中で名についての思考を巡らせた。それはほんの数秒のことである。息を吸い込んだ虚空の時間。
「我が名は、佐伯 朱里。右近殿とは以前会うたことがあった。そなたのご祖母については、人違いであると思うが……」
朱里とは配下であった魔妖五人衆の一人 瞳炎の父、あの少女の面をした小姓の名である。言葉半ばにして途切れた悠仁采の視線は過去を浮かべていたが、向けた先には秋が居ることを彼も承知の上であった。