― 伝わりますか ―
「糸疣の原理など、とっくにお見通しですよ。さぁ、来てもらいますか」

 軽く糸を引かれ、影狼は睨み返す。

「何処へ……」

「もちろん無束院だ」

 涼雨が悪魔のように妖し気に(わら)った。舌がちらちらと燃え、魔を見せていた。

「嫌だ、他人を巻き添えには……」

「それだけか?」

「……え……?」

 影狼は強ばらせた顔を蒼くし、首に巻きついた糸疣を掴んだ。

「それだけではないのであろう?」

 頬から(したた)り落ちる血が、糸疣の細い糸に絡んでいく。それに気付かぬように涼雨は影狼を引き、夜の淵へと駆け降りていった。

 闇が深くなるにつれて、風も強まっていく。

 木々の間を走り抜ける二人に、葉切れが触れては落ち、触れては落ち、流れてゆく。

 ひょろっと天に向けそびえ立つ一本杉に差し掛かった時である。影狼は木の幹に身を擦りつけて、涼雨の足を止めた。

「山の中でこの術を使うことは避けたかったのだが……やむを得まい。己の術というものは、解き方も覚えておくものだ」

「どういうことだ?」

 影狼は締めつけられた両手を胸元で必死に合わせた。

 一度目を伏せ、呼吸を整える。そして見開き──。


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