― 伝わりますか ―

◆背(せな)[一]

 その夜はいやに冷え込みの厳しい黒々とした星月夜であった。

 右京は精を出すようにと豪勢な鍋料理を作ってくれたが、悠仁采は殆ど口にすることはなかった。ただただ右京を見詰めるのみである。

 (たきぎ)がぱりんと()ぜ、長い沈黙を破る。他に灯りはなく、時々月光が壁の隙間から細く差し込むだけである。右京はそんな光には気付かず、ぼんやりと焚き火を眺めながら、火を掻き混ぜては、また炎を眺めていた。

「そなた、織田を憎むか」

 ──ぱりん。

 薪の音と共に、悠仁采は喉からの低い声を発した。一瞬その言葉に反応を示した右京ではあったが、何心なく再び焚き火を転がしている。

「私は父と母と、多くの家来を失いました」

 視線はそのままに、彼の頬を赤々と照らす火は激しさを増す。

「では織田を憎むと……」

「いいえ」

 最後まで言い切る間を与えずに、右京は悠仁采に向かって言った。

 哀しげな瞳であった。

 そしてそれは紛れもなく、月葉を失った時の悠仁采の瞳であった。


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