― 伝わりますか ―

◇背(せな)[二]

「秋、じじ殿は怪我をされておられる。そう上から()し掛かられては、苦しくて(たま)らぬぞ。早く涙を拭いて、おとぎりを摘んできなさい」

 秋よりも先に心を落ち着かせた伊織は、妹にそう言って(なだ)めるや(とこ)の側に刀を置き、その隣に腰を落とした。ややあって涙を(ぬぐ)い笑顔を取り戻した秋は、悠仁采に謝罪をして小屋の外へ飛び出していった。

「……おとぎりとは……?」

 恐ろしい悪夢から放たれ、再び息を吹き返した悠仁采は、既に汗の引き切ってしまった身体を、伊織に助けられながら起こしてみた。

「煎じ薬にもなる草の一種で、止血や打撲に効き、収斂(しゅうれん)薬・鎮痛剤としても効能のある優れた生薬でございます。必ずやじじ殿……いや、失礼……朱里殿の傷を癒してくれることでしょう」

「じじで構わぬ」

 照れるが如く、咳払いでお茶を濁した伊織を横目に、悠仁采は少々の笑みを洩らしたが、意外にもそれが心からの笑いであったことに、自ら驚きを隠せずにいた。

 ──このわしが、この兄妹に癒されている……?

 と云わんばかりに。


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