― 伝わりますか ―
「それはかたじけない……姫」

「おじじ様!」

 秋はぷうっと頬を膨らませて悠仁采を睨みつけ、そして二人で笑った。

 どうりで──と、悠仁采は思う。我が身から草の潰した匂いがしているのには気付いていた。が、まさかこの二人の手当てであったとは。

 しかしそれより気になるのは、秋の右京を想う仕草であった。乙女の恥じらいはいつの世も奥ゆかしい。だが此処にも又、叶わぬ恋が在るということだ。

「おじじ様……このおとぎりの名の由来には、哀しい物語がありますのをご存知ですか?」

「いや……」


 その話──。


 ──相伝う。

   (時は平安時代)花山院の朝に鷹飼い有り。
   晴頼(せいらい)と名づく。
   其の業に精しきこと神に入る。
   鷹傷を被ること有れば、草を揉みて之に傳くれば則ち癒ゆ。
   人乞うて草の名を問えども、之を秘して云わず。
   然るに家に弟有り。
   密に之を洩らす。
   晴頼大いに念り之を刃傷す。
   此れ自り、鷹の良薬たることを知り、弟切草と名づく──

   (一七一三年刊行)『和漢三才図会』寺島良安著より


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