― 伝わりますか ―
 その日の夜は午後の大半を睡眠で費やしたこともあってか、右京の寝息に誘われることもなく、暗い天井をぼんやりと眺めて朝が来るのを待った。

 ──正しいのは、誰なのか。

 自らに問い掛けてみるが、そのようなこと、そうせずとも分かりきったことであった。世の条理を思えば、おのずと見えてくる。

 ──が、しかし。それで本当に良いのか。

 人を求めるという気持ち。それを押し通すことは罪なのか。ならば人は何故(なにゆえ)に生きる……?

 生きているのではない。生かされているのか。では何故に生かされるのか。我等は天下を獲った者が(あざけ)(わら)うための駒に過ぎぬのか──。

 駒は動かされねばならない。が、おのずから動くことはない。しかし動いてはならぬという約束はない。ならば……──。

 悠仁采は心の混乱を治めるように、両の手で顔を覆い、指の隙間から天井を見詰めた。

 闇が木目の黒い筋を膨張させ、浮かび上がった黒煙の如き影は、やがて悠仁采を包み、彼の精気を吸い取らんと渦を巻いた。

 ──この望み、叶えてくれるならば──。

 眼を閉じても、渦は消えない。

 全てのしがらみが消えてはくれないように、月葉への想いが、今でも消えぬように──。


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