― 伝わりますか ―
「二人がそれぞれを想いやっていることなど、誰が見ても分かること……ですから……行きなされ。わしの時代は()うに終わった。そなた達は一緒になり、次の世を作る糧となりなされ……もちろん城の暮らしほど楽な生活ではなくなりますがな……」

 すると伊織も何かを思うように俯いていた(こうべ)を上げ、秋の腕を掴み、右京の懐へと彼女を押しやった。

「兄様……?」

「じじ殿の言う通りだ。お館様の(めい)とは云え、このような愚劣な者へ妹を差し出すなど、私が間違っていた。……右京殿、じゃじゃ馬な妹ですが、面倒を看ては頂けないか? 宜しくお頼み申す」

「伊織様……」

 潔く頭を下げた伊織に驚いた右京は、胸元で震える秋の、小さな両肩に触れる自分の手に力を込めた。その途端、行き場のない秋の瞳の先が、見下ろす彼の瞳へと定まる。右京はいつもの柔らかい微笑みを取り戻していた。覚悟を決めた、という微笑みであった。

「秋様を、一生お守り申し上げます」

「右京殿……」

 満足そうに頷いた伊織は、混乱の最中にいる秋へと目を落とす。

「秋。お前はお前の幸せを掴みなさい。いつか又きっと会える」

「兄様っ、きっと……きっとでございますよ」

 そうして名残惜しそうに固く抱き締め合った。


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