― 伝わりますか ―
「ご心配なさらずに……あの者が応援を(つど)い、姫様の兄上と朱里様を必ずやお助け致しましょう」

 明心のその言葉で緊張の糸がほつれたのだろう、秋は足元の力が抜けたように膝を落とし、右京は慌てて抱き留めた。

「お疲れになったのでございましょう……只今(とこ)を用意させますので。(しずく)さんっ? 雫さん」

 雫と呼ばれて元気良く現れた少女は、二人に気付いてはにかんだように一つ小さく会釈をした。明心より指示を受け、急ぎ奥の部屋へと消えていった。

 暫くして床が整えられたので、右京は気を失った秋の身を抱え、静かに息をするだけの彼女を優しく寝かせて、その髪を悠仁采のように撫でた。

「右京様……こちらへ」

 明心に促され隣の間へと移る。先程の少女が既に茶を運んでいた。

「あなた様は、右近様、そして右近様の双子の兄 左近様に良う似ておられる」

 満面の笑みで見詰めた明心の、深く皺の寄った眼差し。それは右京を通り越した先に映る、在りし日の二人に向いているようであった。


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