― 伝わりますか ―
「何ということを……もはや橘はその頃より、滅亡の道を辿っていたのでございましょうか……」

 右京の言葉に、湯呑みを取った手を一瞬止めた明心であったが、ふぅと一息吐いて茶の水面を見、話を続けた。

「成人された右近様が、未だ小さきあなた様のお父上を連れて、一度此処を訪れたことがありました──」

 心乱れた右京も、しかし次の句を待つように沈黙を貫いた。

「幾ら幼き頃のこととは云え、兄上の追放を止められなかった我が身の愚かさを深く悔いておられました。ですが、私は思うのですよ、右京様。それがその頃の(ことわり)とされてしまったのです……私はその一件を機に、世の無常を憂い、橘家より離れ、医道に専念致しました──或る時までは。が、世は戦国。そんな最中あなた様は自由を得られた。そして朱里様により秋姫様も自由を得たのでございます。橘という家は確かに潰れましたが、あなた様は生きていらっしゃる……それが答えでございます」


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